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友田多恵子----Sense of Touch of Beauty----紙の素材に魅せられて

■WORKS■

友田多恵子のユニークな実験

友田多恵子の作品は、一般的な紙のイメージとは大きく異なっている。紙は柔らかく繊細な素材であり、薄い平面であり、また印刷や書記やドローイングのための支持体であり続けてきた。近年のいわゆるペーパー・ワークにあっても、紙ならではの風合いや軽やかさが重視されてきたのである。
しかし友田の作品は、長い歴史の中で培われてきたそのような紙の伝統からは、まったくもって逸脱している。それは剛直な素材であり、もっぱら三次元的な空間を構成するものであり、表面はざらざらした岩のようなテクスチャーを有している。紙という物質の意外な可能性を、彼女は独自の方法によって引き出して見せたといってもよいだろう。
だが、はたしてそれは本来の紙からの“逸脱”なのだろうか。彼女は紙の概念の外に出てしまったのだろうか。いや、必ずしもそうとはいえまい。むしろ友田は、彼女ならではの大胆な挑戦によって、紙の中に潜んでいた、もう一つの側面を浮かび上がらせてみせたのだ。どっしりとした存在感とダイナミックな造形力――。彼女が明らかにしたのは、誰もが気付かずにいた、紙そのもののそうした魅力であるに違いない。
彼女は楮とパルプを溶かした原料を溜漉きする。といっても簀(す)は使わずに、直接、平場の上に広げて自然乾燥させるのである。その作業が何層も重ねて繰り返されるから、紙は板のように分厚くなり、また乾いてから霧を吹いて立体的に湾曲させたりもする。視覚というよりも触角に直接に訴えかけるというべきユニークなテクスチャーは、そうした人為的な作業と天日や野外の風にさらす自然乾燥の時間とが合わさったプロセスによって生み出されるのである。
出来上がったさまざまな形の紙のプレートは、それ自体としてもレリーフ的な趣を持つが、多くの場合、彼女は何枚ものプレートを組み合わせて、スケールの大きなインスタレーションを試みている。いかに剛直だといっても紙は紙であって、壁に掛けることもできれば中空に吊るすことも、折り曲げて床に置くこともできるから、他の素材にはない自在な造形が許されるのだ。友田は素材としてのその特性を最大限に生かして、豪放にして、しかも不思議な浮遊感のある空間を出現させているのである。
テクスチャーと構成の魅力もさることながら、溜漉きならではの色彩の力にも注目すべきであろう。プレートはいずれもほぼモノクロームの黒や茶褐色だが、それは後から着彩されたものではなく、墨や酸化鉄、柿渋などを原料の段階で混ぜておくことによって自ずと生じた色彩である。豊饒なインスタレーションの空間がどこか寡黙な緊張感を覚えさせもするのは、いわば地色としての深さがテクスチャーの強さと一体化させられているからなのだ。
技法と素材にまつわる思索の確かさと造形的な実験性。友田多恵子は、そのような他に類例のないペーパー・ワークの世界を切り開いたアーティストとして、改めて高く評価されるべきである。

建畠晢 (国立国際美術館前館長 美術評論家)