■WORKS■
「群石2013」
今、美術館に隣接する正木記念邸の広間に、
石がごろんごろんと群れている。
友田多恵子の作品 「群石2013」
友田は、紙の造形作家。彼女は紙を創る。
しかし和紙のように漉くわけではない。
楮(こうぞ)をベースにして、
そこにさまざまな材料を混ぜて、紙の原料を作る。
鉄や墨、柿渋や雁皮の皮、時にダイヤモンド、
などなどを混ぜこんで、不思議な紙を創ってゆく。
制作現場は、彼女のギャラリーのビルの屋上。
そこに原料を広げて、天日と風を頼りに自然乾燥させる。
それは一回では終わらない。
原料の調合と自然乾燥を繰り返し、何層も重ねる。
そこに重厚で表情豊かな、友田多恵子の紙が誕生する。
実験的ともいえるその制作態度と作品への評価は高い。
その友田が、近年、自らが生みだした紙を曲げて、
石を創りはじめた。まるで石。
しかし、それらは石の形をなしただけの空洞のオブジェ。
その石を、正木記念邸の広間の畳の上に招いた。
ごろんごろんと置かれた石の群れ。
友田の創意の極みである紙の原料の調合で、
石の色が決まる。硬さが決まる、表情も決まる。
大中小さまざま。奇石がある、輝石がある、貴石もある。
墨や柿渋を用いるという、素材のなかの日本美。
畳の上に現れ出た枯山水という、日本的風景。
紙のオブジェを石に見立てるという、日本文化の粋。
一見野性的な友田の石が内包する「日本的なるもの」が
なぜかとても心地よい今春の正木記念邸である。
高橋範子 (公益財団法人正木美術館館長)