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友田多恵子----Sense of Touch of Beauty----紙の素材に魅せられて

■WORKS■

岩美現代美術展における友田多恵子の新作

岩美町は鳥取県の東端、海に面して兵庫県に接する風光明媚な町であり、山陰海岸ジオパークの中心として鳥取砂丘に連なる美しい海岸で知られている。この町では2008年以来、「岩美現代美術展」という展覧会を開催し、国内外の現代美術作家を紹介してきた。毎年夏に開催され、時に野外、海浜や砂丘に設営される作品は私たちを楽しませてきた。2008年、11回目の展覧会には紙を用いた独特の造形で知られる友田多恵子が招聘された。
会場はかつて病院として使用されていた施設であり、現在も医療機械やナースコールの痕跡も生々しい治療室や病室がそのままのかたちで残されている。展示空間は用途に応じて広さも天井高もばらばらであり、ホワイトキューブの対極にある。

癖のある、扱いにくい空間に対して、友田は正攻法で臨んだ。柿渋や墨、胡粉を混入して先染めした質感の強い立体のいくつかは天井から吊され、いくつかは床の上に配置された。友田の作品はサイズが大きいため、一点一点が独立した印象があったが、今回は比較的狭い空間に稠密に配置されることによって、個々の作品というよりインスタレーションとして空間全体が造形の対象とされていたように感じる。

知られているとおり、友田は紙を用いながらも素材からは想像のつかないマッシヴな質感を作品に与え、無彩色に着色された作品は時に石や金属を連想させた。しかし私が今回作品から受けた印象はやや異なる。会場を訪れて私は作品が一種の親密さを宿しているように感じた。このような親密さは何に由来するのであろうか。おそらくそれには作品のサイズと設置方法が与っているだろう。つまり等身大に近く、床の上に置かれ、天井から吊された作品は端的に人体を連想させるのだ。それは設置された場所が元々病室という、人が休むために設計された部屋であったことと関係しているだろうか。天井から吊された点の作品は直立する人体を、床の上に置かれた作品は横たわる人体の暗示に富んでいる。この時、友田独特の素材の質感、溜め漉きされた紙の質感も別の意味を宿す。それは皮膚の暗喩となる。作品の表面の凹凸のニュアンス、そして内部と外部を分かつ構造は私たちの身体を覆う皮膜を模しているように感じられる。床置きされた作品に私が聖骸布に覆われた身体を認めたのはあまりに飛躍した連想だろうか。病室に宙吊りにされた身体、あるいは聖骸布、一歩間違えばいささかグロテスクな印象さえ与えかねないこれらのイメージは無機的な色彩が用いられているがゆえに決して生々しくはなく、抽象的な形態ともあいまって、いわば意味的に中和されている。

人体に類したサイズの単純な形態の立体をホワイトキューブの中に配したミニマル・アートに対して、演劇的という言葉を与えたのはマイケル・フリードであった。友田の新作はサイズや配置においてミニマル・アートと親近性をもつが、今回の展示においては病室という空間の負う過剰な意味が微妙に作品に反映されている。作品は新しい意味を与えられつつ、展示空間に拮抗している。

尾崎信一郎 (鳥取県立博物館副館長)